シリコーンとは?

 シリコン(silicon)はケイ素単体を意味するが、シリコーン(silicone)はシロキサン結合を有するシロキサン化合物あるいはその組成物の総称である。

 <形態> シリコーンはその主鎖構造から、3つの性状に分けられる。その一つはオイル状である。シリコーンオイルは、直鎖状の構造を呈しダイマー(重合度2)では粘度0.65cStのような低いものから重合度が2000の粘度50万cSt程度のものが製造されている。2つ目は、ゴム状のものである。架橋点を有し有機ゴム 同様に粘弾性を呈する。シリコーンゴム の架橋反応には主に3タイプあり、ラジカル反応・縮合反応・付加反応である。シリコーンゴム にはHTVとRTVがあるがHTV(ミラブル)の場合は、パーオキサイドを添加して100〜180℃の温度条件でラジカル反応により加硫させる。RTV(室温硬化型シリコーン)の場合は、架橋剤とスズ触媒を添加して室温で縮合反応により硬化させる。付加反応を利用する場合は、SiH基を有する架橋剤と白金触媒を添加して室温あるいは100〜120℃前後で硬化させる。そして、3つ目はレジン状のものである。シリコーンレジンは、通常2官能あるいは3官能クロロシランの加水分解および縮合反応により、ネットワーク状の構造を形成した個体を得ることができる。また、4官能や官能基の導入などによりその性状を制御し、用途に応じたレジン皮膜を形成させることも可能である。

 <耐熱性> シリコーンの特徴の1つに耐熱性がある。シリコーンが何故そのような性質を有するのだろうか。それは、シリコーンがシロキサン結合(Si-O)からなり熱力学的に安定な化学結合を有することに起因している。ちなみに合成ゴムの化学構造単位であるC-C結合エネルギーは、349[kJ/mol]であるのに対して、Si-O結合エネルギーは423[kJ/mol]である。この違いは、Si-O結合を構成しているケイ素(Si)の電気陰性度が1.90であるのに対し酸素(O)のそれは3.44であることがその1つの要因である。電気陰性度とは、原子が電子を引き寄せる相対的な尺度である。したがって、Si原子とO原子の電気陰性度の差により、電荷の偏りが生じ、Si-O結合ではO原子の方によりマイナスの電荷が偏った状態を形成する。Si-O結合は共有結合であるが、この電気陰性度の差によりイオン結合性を有し、このことが熱力学的な結合の安定性を有する要因と考えられる。

C-C結合Si-O結合
349 [kJ/mol]423 [kJ/mol]

<離型性>  次に、シリコーンの離型性について考察してみよう。表に示したように、シリコーンの表面張力は非常に小さい。その1つの要因は、シリコーンの分子間引力は小さく、分子同士があまり相互作用しない状態を形成しているからと考えられる。この要因として考えられることは、まずSi-O結合のイオン結合性を有した共有結合が非常にフレキシブルなためC-C共有結合鎖に比べて、多様な原子間結合角をとるために要するエネルギーが小さいという点である。その分子鎖の自由度から分子鎖間の距離を大きく保つことが可能となることで、分子間引力がより小さくなる傾向にあると考えられる。もう一つは、シリコーンのC-H結合の極性がパラフィンなどのC-Hのものよりも小さいことが挙げられる。両者の赤外線吸収スペクトルをみても分かるように、パラフィンのCH吸収ピークよりもシリコーンのCH吸収ピークの方が小さく、シリコーンのC-Hの分極の度合いが小さくその伸縮振動エネルギーが低いことに起因していると考えられる。このように、分子間距離の大きさとシリコーン側鎖のメチル基の極性の小いささがその離型性を生んでいると考えられる。

シリコーンオイルの表面張力[mN/m]ポリエチレンの表面張力[mN/m]水の表面張力[mN/m]
203572

<耐寒性> シリコーンは耐寒性に優れている。シリコーンは、上述したように分子間力が小さいため固化温度が低いことがその一因である。シリコーンは、分子量が大きくなってもその固化温度がマイナス50度前後で一定となるが、直鎖状パラフィンは分子量とともに100度付近まで上昇傾向にある。これは、シリコーンが物性的に温度依存性が小さいという特徴を有することを意味する。

<ガス透過性> シリコーンは、ガス透過性に優れている。これは、上述したような分子間距離の大きさに関係している。

シリコーンゴムの酸素透過性
[ml/s・m・Pa]
天然ゴムの酸素透過性
[ml/s・m・Pa]
50.2

<その他> シリコーンは、そのほかに撥水性・消泡性・絶縁性・耐放射線性・難燃性・生理不活性等の優れた性質を有している。